越智君から紹介を受けました、勝部です。呼ばれかたはどんなものでも嬉しいです。一度こーじろーさんがスプライザで"BAY"呼びだったときはすぐに自分のことだと気付けませんでしたが、偉大な先輩であるCOMさんやVOIさんに続く3文字アルファベットの系譜としてこれから頑張りたいと思います。
今回は京都大学の新歓期における重大イベント、紅萠祭での3日間の出来事についてお話しします。
時は4月2日、吉田キャンパスは多くの新入生と、彼らをつけ狙うサークル勧誘の大学生たちで賑わっていました。一口に勧誘といっても、多くの部活が列をなし、迷い込んだ新入生を閉じ込めて次々に勧誘を仕掛ける「ビラロード」と、キャンパスをうろつき手当たり次第に新入生とおぼしき人に声をかける「キャンパス巡回」の二種類があるのですが、今回僕は後者に割り振られました。僕のグループは、主務の山口さんを中心に、谷澤さん・北原くん・僕という部内きっての口下手な3人で周囲を固める編成だったのですが……。1日目のこの日は始まる前から不穏な空気が漂っていました。肝心の山口さんが多忙のため不在だったのです。それでは一体誰が新入生に声をかけるというんだ、と互いに押し付け合うような雰囲気のなかで、残念ながら僕たちは大きな成果をあげることができませんでした。シフトも終わりに差し掛かった頃、一人で立ち止まってなにか調べものをしている、いかにも声をかけやすそうな新入生を見つけました。勧誘がてら話を聞くと、彼は友達とアメフト部(通称ギャング)の新歓イベントに参加する約束をしたものの、開催場所がわからず困っていたということでした。暇を持て余していた我々は、嬉々として彼を送り届けてあげることにしました。道中での会話も弾み、新入生に筋肉を褒められていい気になりながら、僕たちは北部キャンパスの意外とわかりにくい場所にあるギャングの本拠地に辿りつきました。そこで彼と別れて、やっと一仕事やり遂げた、と笑顔で帰路についた我々でしたが、よく考えてみると、熾烈を極める新歓の争いにおいて、アメフト部はまさにラスボス、最大の宿敵といっても過言ではありません。今まで、何人のラグビー部に入るはずだった新入生が彼らに奪われていったことか……。僕たちはギャングたちの巣窟に、みすみす哀れな新入生を置きざりにしてしまったのでした。それから彼の行方は杳として知れません。こうして僕たちの1日目は終わりました。
2日目は山口さんが来てくれたので、僕は勝手に大船に乗った気でいました。実際山口さんの手腕は流石の一言で、序盤から女子大生の集団に声をかけるという、僕たちだけでは到底できなかった芸当を成し遂げていました。しかし、実はビラロードの外でチラシを配ってはいけないというルールがあったらしく、委員の人に注意されてしまったことで2日目の新歓に早くも暗雲が立ちこめました。目立つところで勧誘ができなくなった我々は、「楠坂46」なる噂に聞いていた京大生アイドルがライブをやっていたのをぼんやりと眺め、本当に46人もいるのか数えたりしながら無為に時を過ごしました。しかしシフトの時間は90分と長く、いつまでもぼーっとしているわけにもいかない我々は次の作戦に移りました。その作戦とは、ビラロードの出口で待ち伏せして、出てくる新入生に狙いを定めるというものでした。ビラロードは一度入ったら最後、出口まで抜け出せない仕様なので、そこに網を張っておけば入れ食い状態、というわけです。しかも、出てくる新入生は一度ビラロード担当のラグビー部員に説明を受けているので非常に話が早いというおまけつきでした。時間帯が悪く思ったほど新入生がやって来なかったものの、僕たちは怪しいサークルが凝縮されたビラロードの最後尾に紛れて何人かに声をかけ、2日目は少々の成果をあげることができました。
3日目にもなると少しずつ要領を掴んできます。僕たちはビラロードを抜けたところにある中庭に、歩き疲れた新入生が集まるスポットを発見しました。僕たちはここで、今までになかったほどの人数に勧誘を仕掛けることができました。いくら人に話しかけるのが億劫な自分といえども、疲れてベンチに座っている新入生相手なら幾分かハードルが下がるというわけです。しかしここで問題が発生しました。声をかけた新入生全員に配るはずだった新歓イベントのカレンダーが気付けばあと一枚しか残っていなかったのです。しかし我々は、このピンチを逆手に取る一つの妙案を導き出しました。それこそが、カレンダーを新入生に見せながら各イベントをPRし、詳細はこれを見てほしいんだけどあと一つしかないから代わりに……と言って自然な流れで京大ラグビー部のSNSをフォローさせるという、名付けて「ビラがないならインスタをフォローすればいいじゃない」作戦です。この作戦は、会話の流れを連絡先の交換に持っていけないという我々の永遠の悩みを解決し、何人もの新入生にラグビー部のインスタをフォローしてもらったり、ラインを交換したりすることができました。しかし声をかけたうちの一人は明らかにこちら側の魂胆に気づいていて、ラインの交換を持ちかけても頑として断られました。あの時の彼の冷たい目は今でも忘れられません。トラウマになりそうです。こうした挫折を乗り越え、僕たちの3日間は終わりました。
激動(?)の3日間を経て、僕自身は3人の新入生とLINEを交換するという輝かしい成果をあげました。しかし、彼らに新歓イベントの勧誘メールを送ってみたところ、結果は残念ながら全て既読無視でした。そして当然の帰結として、彼らの姿を宇治グラウンドで見ることは一度もありませんでした。実のところ、僕は最初からこの結果をうすうす予感していました。彼らがそんなに乗り気じゃないことくらい、話をしているときの表情からすぐに察することができます。それでも僕たちはノルマのために、勇気を出して彼らに勧誘を強行したのです。その結果得たものは、新入生の愛想笑いと冷たい視線だけでした。嗚呼、労働とはかくも不毛なものなのでしょうか。僕は社会に出るのが恐いです。やっぱり院進しちゃおうかな。そんなことを思った今年の4月の出来事でした。
次の担当は同期随一の音楽好き、ロックにも明るい北原くんです。最近の彼はかなり破天荒で、車の運転や言動にもロックンローラーの精神が滲み出ている気がします。