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◎基調講演: 日本代表の監督時代に大西(鉄之祐)さんにいろいろな意見を聞いた。私は大西先生のラグビーを踏襲したわけではないが、かなり参考にはした。大西さんは星名(秦)さんのラグビーを意識していると学生時代から思っていたが、代表監督時にも強くそう感じた。日本のラグビーでは、星名ラグビーと大西ラグビーがずっといいものを作ってきたと思う。それを少しでも伝えようと、代表監督、そして今は強化委員長を勤めている。 世界のラグビーも日本のラグビーも変ってきつつあるが、今日は日本のラグビーが代表レベルでどういうことをやろうとしているのか紹介する。 日本ラグビーフットボール協会では、「ラグビー競技を誰からも愛され、親しまれ、楽しめる人気の高いスポーツにする」というビジョンと、そのためのターゲットを定めている。ターゲットの第1は代表チームの強化で、ワールドカップに常時出場し、2007年のワールドカップでベストエイトに勝ち残ること。第2は競技人口の増加、特に青少年プレイヤーの数を増大して、ラグビーを野球、サッカーと共に3大ボールゲームにすること。第3は競技力の向上で、そのための指導育成のシステムを確立すること。第4は観客数の増加で、競技場に足を運ぶ観客数を増やし観客に感動を与えることに努力することである。 このうち具体的な目標があるのは、代表チームが2007年にベストエイトに入るということであるが、私たち強化部門ではこの具体的目標に向け、いろいろなことを始めたところである。 まず代表チームを強化することを目標に掲げたのは、それがラグビーの起爆剤になるだろうと考えるからだ。世界のラグビーでは、北半球の6ヶ国対抗をやってる各国と、南半球のニュージーランド、オーストラリア、南アフリカでプロ化が進んでいる。6年程前に、世界ラグビーがオープン化してプロ化の流れが加速した。アマチュアのラグビーは非日常的なものである。たとえば京都大学の学生は学業が本業で、余暇としてラグビーをやるし、社会人でも仕事の余暇、福利厚生の一環としてラグビーをやる。一方プロになるということは、ラグビーそのものが職業として日常的になるということである。あらゆるスポーツにおいて一番強くなるのはプロになることである。これは様々なスポーツで証明済みで、良い悪いに関わらず現実に起こっていることなのである。日本ラグビーのオープン化は世界に6年遅れている。 今のような日本代表の形で本格的に強化を始めた昭和40年代、ジュニア・オールブラックスを破ったり、イングランドが来日して秩父宮で両チームノートライの6対3の試合をやったり、当時としては輝かしい非常にいい試合を世界に見せた。その後若干差が広がったが、日比野監督時代にはウェールズ遠征、つまりアウェイの試合で24対29と1トライで逆転というところまで追い詰める試合ができた。このように世界との差が広がったり縮まったりしていたが、世界のラグビーがオープン化プロ化していったこの5、6年は差は広がる一方である。スキルや体力の差というよりは、プロとアマがやるということにおいて大きく差が広がっていったのだと思う。 相手にはプロの選手が入っているのに、こちらはアマチュアなので差が埋まらない。それはフィットネスに一番現れる。彼らは毎日練習をしてプロとして必要なフィットネスを維持したり、必要な筋力トレーニングをしスタナミも十分付ける。それに加えてスキルを高める。プロによりオープン化された国々のチームと、制度の問題で差が広がり、もはやスキル以前の問題になってしまっている。 そこで日本も昨年度からオープン化を導入した。英国や南半球の国々のオープン化とは若干違う日本式のオープン化で、日本代表チームに選ばれた選手だけを対象としたものである。まず選手に所属チームから4ヶ月間はずれて日本代表の活動に専念してもらう、その間の報酬についてはラグビー協会が所属チームに支払う。さらに選手たちに、試合の出場料や勝利ボーナスなどのインセンティブを別に直接渡す、といった内容である。 昨年は初年度だったので、チームの方には理解して頂いたが、社内的にどうするかがなかなか固まらず、代表のうち8名だけが専属契約をした。今年は社会人の選手30名と専属契約をし、3月から7月中旬まで代表専属で活動をしている。2年目だが実質的には今年が初年度である。 オープン化により自分たちも相手もプロになるので、意識の差を埋め、そこからスキルや戦略の強化につなげたいと考える。何をやっても「彼らはプロだから」と思ってしまうのを解消したかったのである。インセンティブの資金について選手には、「この資金は自分たちのラグビーのために投資してくれ」と言っている。金銭でラグビーをプレイしてもらうという意味ではなく、選手諸君の強化費と思って自分に投資してくれという意味である。 強化の両輪という意味では、昨日の理事会で決め、今日の新聞でも発表されたようにトップリーグの創設がある。世界のラグビー地図は、もともと南半球のニュージーランド、オーストラリア、南アフリカが非常に強く、北半球が負けるという図式であった。これはこれらの国々がラグビーを強化したことと同時に、その手法としてスーパー12を使ったことによるところが大きい。3ヶ国12のチームが総当たりでやる。高いレベルの試合を毎週行い、その選手たちがニュージーランド、オーストラリア、南アフリカの代表選手としてプレーする。このスーパー12の創設というのが、南半球の優位の一番の象徴的なものである。 その後、英国がプレミアシップリーグを創設した。これも12チームでトップリーグを作り大成功を収めた。そこに非常に優秀な選手が集まり、英国人のほかにもワラビーズの現役のセンターや、フランスの選手などいろいろな国の代表選手がプレーしているからだ。プレミアシップリーグの成功によってイングランドが非常に強くなり、いまやイングランドがニュージーランド、オーストラリア、南アフリカを破るなど北半球が盛り返してきて南北の力が拮抗してきている。 一方、まったく違うやり方をしたのがアイルランドである。アイルランドは、代表選手に他国でプレーをすることを禁じ、代表選手を全部国内に集めて州対抗の試合だけをやらせた。これはある程度成功し一時イングランドに近づいたが、またイングランドに離されてしまった。各ユニオンとも、代表チームを強くすることにおいて、国内の試合をよりよくしようということをずっと考えてきた。ニュージーランドでは、MPCという州代表の試合を始めた。選手にとっては大変スケジュールが厳しくなってきているが、トップを作る場合に、国境をまたぐようなリーグを作って強化しているのが世界の現状である。 日本で本格的なトップリーグができれば、北半球の英国のリーグやフランスのプロ、南半球のスーパー12に次ぐようなリーグになる。北半球の6ヶ国や南半球の3ヶ国以外でそれに続くような国、カナダ、サモア、フィージー、アルゼンチン、ルーマニアなどではリーグがない。そういう意味では、日本はオープン化では遅れたが、トップリーグでは第二グループの国々より先行できるのではないかと考えている。トップリーグの創設については新聞報道であった通りで、まだ詳しくは言えないが、トップチーム同士でより激しい、厳しい試合をすることが強化につながると考えている。ただ、いろいろ難しい問題もあり、運営等も十分準備しなければならない。来年度から始まるが是非成功させたい。 日本代表チームの強さは、代表チームに選ばれた選手と監督・コーチの力だけではなく、ラグビー協会の加盟各チームの強さ、つまり日本ラグビーの総合力の強さではないかと思う。その意味で、代表チームがサポートを受けているわけで、私も責任を持って強くしていきたい。 先日、雑誌の編集長の懇親会の席で、「少なくともワールドカップの予選、韓国に勝ってくれ」とか、「大丈夫か?」というような話をされ、その程度の期待かと大変寂しい気がした。大きな事をいうわけではないが、ワールドカップでどういう試合をするかが、本当の大きなターゲットなのである。日本代表はワールドカップにずっと出ており、次の次にはベストエイトを狙うところまで行きたい。先日Jリーグの川渕チェアマンに、「サッカーよりラグビーのほうが早くベストエイトに行きますから」と言い切ったし、そこを見据えてやっている。 第2回のワールドカップに代表監督で行った際、世界のラグビー関係者や英国のファン、ジャーナリストは、日本が1勝や2勝することにはまったく興味がないと感じた。そうではなくて、日本がどういうラグビーをするかということを見ている。その時日本は1勝したが、初めての1勝などということはあまり意味がなく、このワールドカップで日本のラグビーが評価されるかどうかということが本当に意味があるのだと思った。つまりワールドカップは、日本のラグビーを評価してもらう場なのである。 日本のマスコミは、サッカーなどでも大会前から盛り上げて期待値を高め、何勝だ何勝だと騒ぐ。しかし実際には、体の小さい日本が、どういうラグビーで大きい人たちと戦うのか、さらにそれは評価できるものかどうかということが見られている。極端な例では、ジンバブエに勝った際、ジンバブエはワールドカップに出場する資格はない、ということさえ言われた。スコットランド、アイルランド、ウェールズいったような国は、南アとかイングランドとかに比べると、「自分たちは小さい」と思っている。彼らはイングランドやニュージーランドと戦うときに、日本がやることが「自分たちに参考になるんではないか」という目で真剣に見ている。参考になるとなれば、彼らは日本ともっと交流しようと言ってくる。それがなければ彼らには日本でやる意味がない。ラグビーは最高の場がワールドカップで、そこで日本のラグビーが評価されることは、日本がそこで勝つと同じぐらいの意味がある。そういうラグビーをつくるのが我々の役目だと思う。 代表チームの強化やトップリーグに次いですべきことはラグビーの普及である。普及をするために、ラグビーがオープン化してスター選手が生まれて、それを目指す選手が出てきたり、またはトップリーグが非常にいい試合をして、ラグビーをもっと見よう、やろうという人が増える。そういうことを目指している。多くの人がプレーするということが目的だから、どう普及につなげていくかを考えなければならない。 ラグビーの強化で一番大切なのは当然戦力だろう。そして戦略、もう一つは環境。この3つである。早稲田はこれから強くなるだろう。まず戦力は確かに充実してきた。2番目には清宮監督が非常に良いラグビーをやっている。さらに今年から東伏見を離れ、新たなグランドを作り非常にいい環境でやっている。つまりすべてが揃っている。 京大の皆様にも、まず戦力面では学生に勧誘を頑張ってもらいたい。早稲田でいえば、体育会の運動部が43もある。やはりもっと部の数を絞るべきだろう。つまり京都大学として何をボールゲームでやるんだというのを絞り、そのなかで是非ラグビーを学生に選んでもらいたいものだ。また環境面では、日本で有数のトップの国立大学なのだから、当然、芝のいいグラウンドを大学OBで作って頂きたい。これはラグビーを古く80年もやってる大学の責任じゃないかと思う。川渕さんが百年計画で学校のサッカーグラウンドを芝生にする、ということを主張しているように、とにかく環境が必要なのだ。伝統ある京大の皆様には率先して模範を見せて頂きたい。 一方、戦力面では、トップリーグに入るチームや大学選手権に出場するようなチームは、子どもたちのラグビースクールを運営する義務があるだろう。あまりお金もかからないだろうし、ラグビー協会も支援するので是非やってもらいたい。そのあと、中学、高校に、それをどうつなげていくかということはラグビー協会の仕事だが、子供たちの競技人口を増やす、ということについては皆様にも是非お手伝い頂きたい。 そういう意味で、普及というのが次の重大なものだろうと思う。 ラグビー協会は町井会長になられてから、いろいろな意味で変わりつつある。非常に極端な言い方で「そんなのいいのか」と思われるかもしれないが、多くの人に見てもらうという意味で、ラグビーというものはすべて商品だと日本ラグビー協会では考えている。日本のラグビーというのは、日本代表があり、今後はトップリーグがあり、大学ラグビーがあり、高校ラグビーがあって、ラグビースクールがある。これが全部商品で如何にいいものにしていくかが我々の責任なのだ。皆さんに見てもらったりやってもらったりする商品に作り上げていくことが大事だろう。そのために必要なのは、戦略的に他のスポーツよりも優れていることだが、加えて、今の時代はスピードの優位性が求められている。通信手段が発達し、情報がすばやく伝達されるような時代には、いかにいい戦略があっても、同時にスピードの優位性がなければ早く陳腐化してしまうのではないだろうか。つまり、いいものを早くやって皆様に届ける、ということが大事なのである。 最後に大学ラグビーについてだが、私は大学ラグビーは日本ラグビーのちょうど中間というか、震源地というような位置づけではないかと思う。大学ラグビーが盛んになり活発になることによって、トップのチーム、社会人のチームにどんどん人を供給する。そして大学ラグビーがいいラグビーをやることによって、それを目指す高校生が増える。そういう意味で、大学というのは非常に重要な位置づけである。また現在のスポーツで、大学が中心になってやってるという競技は数少ない。サッカーや野球では大学は空洞化している。ラグビーは、大学が今でも一番人気があるという特異性をアドバンテージとして最大限に使う必要がある。今の日本代表を見ても、ほとんど大学や大卒の選手だが、そういうナショナルチームを持っている競技というのは他にない。これを維持すれば、高校生、中学生、小学生と裾野が広がっていくだろう。 京都大学の皆様には、大学ラグビーの創設者の一員という重い責任もあると思うし、関西での大学ラグビーのメンバーとして、是非いいラグビーを展開して頂き、「これが京都大学のラグビーだ」というのを作り上げてほしい。また、全国大会に是非出てもらい、いいラグビーをして頂きたい。もう一つは、京都大学の皆様は大変優秀なので、OBの方々には各界で活躍して頂き、いろいろなところでラグビーを支援していただきたい。いろんな企業で重責を担っている方が他の大学よりは圧倒的に多いので、表となり裏となってラグビーを支えて頂きたい。これもラグビーの総合力という意味では、たいへん貴重なことなので、その分野でも是非ご活躍いただきたい。 |